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           真珠・真珠貝世界図鑑        

            《 概 説 》 -------- 世界の真珠と真珠貝 (本文より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真珠や真珠貝は、人類の歴史とともに歩んできたといっても過言ではない。ここでは詳しい史実を列挙することは、省略するが、中国や日本・インド・ペルシア・エジプトでは、5000年以上も前から愛好されてきた。アメリカ大陸においても未開時代にすでに利用されている。それらは、天然のままで、すでに光り輝いていることから、装飾としてだけでなく、財宝として蓄えられ、また権威の象徴として所持され、あるいは太陽や月に対する信仰にも関連して珍重されてきたことは、容易に理解される。

 

 紀元前4500年頃のペルシア文明の廃墟のひとつ「ビスマヤ遺跡」から真珠貝の装飾品が出土しているが、これは真珠貝利用の最古の証拠品と見做すことが出来る。

 古代の真珠の産地は、ペルシア湾・紅海、インド南部とセイロン島北部に挟まれたマナール湾、中南米太平洋沿岸、そしてカリブ海南部である。いっぽう淡水真珠では、中国・米国が多産地として知られている。“真珠王国”日本は、養殖真珠では有名であるが、天然真珠としては5000年以上も逆上ることは出来るが、産出量は少なく、世界的な真珠産出地と見做すことは出来ない。

 

 真珠は、真珠貝によってつくり出されることは、すでによく知られているが、“生みの親”とも言える真珠貝については、ほとんど顧みられることはない。それは“宝石の女王”として愛好されている真珠のノーブルなイメージを、真珠貝は損なわすと思われているからではなかろうか? 南洋真珠を生み出すシロチョウガイやクロチョウガイ以外の真珠貝は、お世辞にも美しい貝とは言えない。ましてや淡水真珠の母貝は外見は汚く、一般の人々では到底美的価値を見出すことは不可能である。

 しかし、この一般の人々に顧みられぬ真珠貝が、私たち人類に宝をもたらす“福の神”であるこは確かである。

 

 ところで、世界中には何種くらい真珠貝がいるのだろうか? これまでそれを調べた人もいなければ、記した文献もない。ただ、世界的な貝類図譜のひとつ、英国の『コンコロジア・イコニカ』(L . A .Reeve, 1858)には海産種75種、淡水産692種が、同じくドイツの『コンキリエン・キャビネット』(W . Dunker, 1872)には海産種111種、淡水産698種が掲載されている。しかし、これらの大部分の種は「シノニム」(同種異名)で、実際の種数ははるかに少ない。果たしてどのくらいになるのかは今後の課題で、40年間も真珠貝に係わってきた私にも即答することは出来ない。

 

 本書は一応『図鑑』とうたってはいるが、分類書ではなく、あくまで真珠事業に携わる人々に参考、あるいは将来の発展への基礎資料となることを願って取りまとめたものである。とは言っても、このような内容のものは世界中にはなく、貝類の専門家や愛好家たちにも少なからず役立つと思っている。

 

 世界の真珠貝を通覧する時、従来もっとも困惑したのは、日本のアコヤガイに似た真珠貝の存在であった。わが国においても別種とされたり、生態型と見做されたりしたベニコチョウガイやモスソアコヤガイ・シミズアコヤガイ等、同定に苦慮する近似種がいろいろとあって、真珠貝の分類は、確たるものでないまま放置されてきた。

 

 私は以前から、アコヤガイは世界中に分布する“コスモポリタン”であると言い続けてきたが、まさか3大洋の貝が同種であるとは、想像もしなかった。東南アジアからオセアニア、そしてせいぜいインド、スリランカあたりまでの分布域と予想していた。その後、実地踏査によって、それぞれ別種とされていた真珠貝はすべてアコヤガイと同種と判明、学名は Pinctada martensiiP. vulgaris から P. fucata に変更された。

 

 昨年私どもは、「貝貨」のルーツを求めて米国の主要な研究機関を回ったが、その折り、はからずも世界中の多数の真珠貝の標本を見る機会に恵まれた。これによって、従来日本特産とされていたアコヤガイは、インド太平洋だけでなく、ペルシア湾・紅海・地中海から、南アフリカまで広く分布することを確認した。さらに驚いたことに、私が「カリブアコヤガイ」として区別していた大西洋産の真珠貝も、アコヤガイとは的確に区別することが出来ないことを知った。同時に、発表された真珠貝に関する諸文献をひもといてみて驚いた。それぞれの種が「シノニム」(同種異名)として明らかに連なっていたからである。つまり、これまでの学者は、地域的に見て記載しており、全貌を捕らえていなかったことによって、このことに気付かなかったのである。

 結局、天然・養殖を問わず、また洋の東西を問わず、古代から人類に愛好されてきた海産真珠の大部分は、アコヤガイから得られたものであることが、判明した。すなわち、貝が分布する所では真珠養殖は可能となった。

 

 いっぽう、淡水真珠貝では、北米と中国に多数の“有用種”が分布するが、中南米産の種の中にも、養殖に利用され得るものがあることが判明した。南米のアマゾン川流域で、試験養殖が行われたことは知っていたが、その結果は聞いていない。

 さらに、アジアやアフリカ方面でも利用価値のある種は生息すると思われるが、問題は資源量である。

 以上、ごく簡単に世界の真珠貝について記したが、いずれさらに詳しく調査した上報告する機会を持ちたいと願っている。

 

 ≫ 『真珠・真珠貝 世界図鑑』

 

 

 

 

 

 

 

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